インクカートリッジリサイクル品の判決(その2)

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060131/112884/
日経BPから詳報がでました。
今回は、「第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合」短くいうと発明の本質部分を加工・交換した(本文(2)参照)の事案にあたるそうです。
間違えやすいのですが、これは、本質部分を「加工・交換」したこと自体が論点ではありません。交換した結果、特許請求の範囲に明らかに含まれないものになっていたら、その部分の技術は特許権侵害していないのです。*1
これは特許権侵害裁判ですから、「加工・交換」をした後のものもキャノン社の有する特許請求の範囲に含まれる形のものになっていた、のがおおもとの問題として議論されたのですね。
インクカートリッジは、以前からのレンズ付きフィルムと同様、様々な特許の集積であり、インク交換に関係ある部分(たとえば、印刷回数を検出するIC素子など)のほか、インク収容部や射出ノズル部分なども再生販売物中には存在しているはずです。これらに係る特許権を主張しないのかと疑問に思われますが、もともとは並行輸入に使用されたはずの「消尽」の論理がこちらでも出てくるであろうからと、主張をあきらめたようです。アメリカでもリサイクル部品が合法なのは、消尽という考え方でしょう。


結果、「加工・交換」も「製造」と同じように発明の実施行為にあたり、しかもその交換をうけた部分はあたらしい(まだ販売されたことがない)から消尽もうけないよ、という理屈*2を判示したものだと思われます。*3


しかし、社会状況からみると、少量ロットを扱う面倒なリサイクル事業自体をキャノン社が明示的に行っているわけではありません。
いっぽうで消費者にとって資源リサイクルという言葉は非常に魅力があります。地球資源の保護という意味のほかにも、消費者からみて、インクが全部(全種類一滴も)なくなったわけではなく、まだ残っているのに、ICでチェックしてどんどん新しいインクカートリッジをかわされたり、つまりやすいインクジェットノズルの扱いが難しいからといって、ノズルクリーンなどと無駄なインクを使わせられていることに対して、心理抵抗はあります。ですから、「キャノン社のインクカートリッジにインクジェットノズルが付属しており、それに対して投資開発して同じ品番でも新しいものが品質がよくてうまくつかえるようにどんどんし向けているのだ」という投資回収の仕組みに対する企業宣伝不在、消費者の無知をつけこまれたとも思われます。


そして、一番興味深いことですがすでに「消尽」は知財法に明示のない個別の特許期限になっているのですね。もう少しリサイクル合理的にデポジット制、製品保証の中止、リース製などを採用するのは不競法、PL法などの消費者保護のために行えないのでしょうか?家電も増えて消費者も印刷業者なみのことを自宅でできるようになりましたが、だからといって製品取り扱いにそこまで手を掛けてコントロールできない消費者も多く、一たん買ったが最後、メーカーの言いなりになって資源の使い捨てに荷担させられるのかと八方ふさがりなエネルギーが生まれ、それが知財侵害を後押ししてしまうという感があります。たとえば、リサイクルを業とするのではなく消費者個人で行えばどうでしょうか?個人が耳慣れないし明文化もされていない「消尽」論をたてに大企業の知財権と争えるでしょうか?今後いくらでも事案は起こるでしょう。
価値を仮託された物が使用済みになれば価値をうまく抜き去り、また再注入して売るのがリサイクルこみの製造業の理想ですが、これをだれの手にせよ推進する場合に、「知財」「消尽」は本来邪魔になってはいけないものだと思います。同一製品でも使用権と物自体を別コントロールできればベストなのでしょう。ダウンロード販売されるソフトウェア、自家リサイクルできるインクカートリッジ(もちろんダウンロードや詰替インクは適切な価格で販売して開発費用回収です)などが理想にちかいと思います(今回敗訴した会社も自家リサイクル用の独自部品をも販売していました)。
昔つくられた製品はみなそうでしたね!

*1:ただし、明らかに含まれなくなるまで大きく手を加えるなら、リサイクルより新規制作したほうが楽になりそうですから、特許侵害回避としてはうまい手ではありません。

*2:良い意味での理屈ですよ

*3:仮託された価値の保護は仮託された部分により行うことにしたのですね、ぱっと見なかなかアクロバティックだけれど知ればなるほどと思う判決です